広告の第三勢力リテールメディア——2026年に世界1,650億ドル、予算配分の新常識
小売の購買データを使う「リテールメディア」が、検索・SNSに次ぐ第三の広告に育った。世界の広告費は2025年の約1,220億ドルから2026年は約1,650億ドルへ。米国は約710億ドルで二強が増分の89%を握る。なぜ伸びるのか、ブランドは予算配分をどう見直すべきかを整理する。
デジタル広告の主役は、長らく検索(Google)とSNS(Meta)の二強だった。だがいま、そこに割って入る第三勢力が急速に存在感を増している。小売事業者が自社の購買データと売り場を広告枠として開放する「リテールメディア(Retail Media)」だ。AmazonやWalmart、国内では楽天やYahoo!ショッピングのような小売・ECが、商品検索結果やサイト内バナー、店頭サイネージを広告商品として販売する仕組みである。
調査会社eMarketerによれば、世界のリテールメディア広告費は2025年の約1,220億ドルから、2026年には約1,650億ドルへと拡大する見通しだ。2025年の成長率は前年比17.6%で、デジタル広告費全体に占める比率は15.4%に達した。2028年にはデジタル広告の約4分の1を占め、SNS広告を追い抜くとの予測もある(いずれもeMarketer予測)。
なぜ、この領域がこれほど伸びるのか。そしてマーケティングやブランドの予算を預かる立場として、何を見直すべきなのか。本稿では数字の全体像をつかみ、伸びる理由と二強集中という現実、そして実務での向き合い方を掘り下げる。
検索・SNSに次ぐ「第三の広告」
リテールメディアの本質は、「買う直前の人」に「買う場所そのもの」で広告を当てられることにある。検索広告は購買意欲の高い瞬間を捉えるが、購入は別サイトで起きる。SNS広告は認知を広げるが、そこから購入までは距離がある。これに対しリテールメディアは、商品を探し、比較し、まさにカートに入れる瞬間の画面で広告を表示する。広告と購買の距離が、ほぼゼロなのだ。
しかも小売事業者は、実際に「誰が・何を・いくらで買ったか」という一次データ(ファーストパーティデータ)を握っている。広告を見た人がその後に本当に買ったかどうかを、同じプラットフォーム内で計測できる。この「閉じた計測(クローズドループ)」が、効果の見えにくいネット広告の世界で強力な武器になっている。
2026年に世界1,650億ドル——数字で見る勢い
まず規模感を押さえたい。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 世界のリテールメディア広告費(2025年) | 約1,220億ドル |
| 同(2026年予測) | 約1,650億ドル |
| 前年比成長率(2025年) | +17.6% |
| デジタル広告費に占める比率(2025年) | 15.4% |
| 米国のリテールメディア広告費(2026年予測) | 約710億ドル |
1年で400億ドル超も積み増す市場は、デジタル広告の中でも突出した成長分野だ。米国だけで2026年に約710億ドルが投じられる見通しで、これは日本の地上波テレビ広告費を大きく上回る規模である。成熟したと言われるデジタル広告市場の中で、リテールメディアだけが二桁成長を続けている。
なぜ伸びるのか——一次データと「閉じた計測」
成長の背景には、二つの構造変化がある。一つは、プライバシー規制やサードパーティCookieの制限で、外部データに頼った追跡型広告が難しくなったこと。広告主は「同意のもとに集めた確かな一次データ」を持つ媒体を求めるようになり、購買履歴を握る小売は最有力の受け皿になった。
もう一つは、計測の確実さだ。広告投資の効果(ROAS)を、推定ではなく実際の購買データで示せる。経営から「その広告は売上にいくら貢献したのか」と問われたとき、リテールメディアは答えを持っている。不確実な認知広告より、売上と直結する数字を示せる媒体に予算が流れるのは自然な流れだ。さらに伸びしろも大きい。消費者支出の約8割は今なお実店舗で起きているのに、リテールメディア広告の約9割はオンラインに偏っている。店頭サイネージなど「店内リテールメディア」は、これから本格的に開く市場だ。
二強集中という現実
ただし、この市場には見落とせない偏りがある。米国では、2026年にリテールメディアへ新たに増える広告費の89%超を、AmazonとWalmartの二社が吸い上げる見通しだ。中でもAmazonの広告収入は2025年に600億ドル、2026年には約700億ドル、2028年には750億ドル超に達し、2位以下を65億ドル以上引き離すとされる。米国のリテールメディアでAmazonは約75%のシェアを握る。
これは広告主にとって、機会であると同時に依存リスクでもある。最も効率よく売上を取れる場所が特定の巨大プラットフォームに集中すれば、出稿条件も手数料もその胴元に握られる。リテールメディアに予算を移すほど、自社の販売がそのプラットフォームの土俵の上に乗る——この構造を理解したうえで使う必要がある。
日本とブランド側の実務——予算配分をどう見直すか
日本のEC市場は2026年に38兆円規模に達するとみられ、その上でAmazon・楽天・Yahoo!ショッピングが広告事業を強化している。ブランドや販売事業者にとって、リテールメディアはもはや「やるかどうか」ではなく「どう配分するか」の段階に入った。
実務での出発点は三つある。第一に、認知(SNS・動画)と刈り取り(リテールメディア)の役割を分けて予算を組むこと。リテールメディアは購買直前に強い一方、需要を新たに生み出す力は弱い。すべてをここに寄せれば、いずれ刈り取る相手がいなくなる。第二に、閉じた計測の数字を鵜呑みにしないこと。プラットフォーム内で完結する計測は、もともとそのブランドを買う予定だった人を「広告の成果」として過大評価しがちだ。第三に、二強への依存度を意識し、複数の小売メディアや自社ECのデータ基盤にも投資して、交渉力と選択肢を確保しておくこと。リテールメディアは強力だが、胴元の土俵であることを忘れない——それが予算配分を誤らないための前提である。
まとめ
- リテールメディアは検索・SNSに次ぐ「第三の広告」。世界の広告費は2025年の約1,220億ドルから2026年は約1,650億ドルへ拡大し、2025年の成長率は前年比17.6%、デジタル広告費の15.4%を占めた(eMarketer予測)。
- 強みは「買う直前・買う場所」での出稿と、一次データによる閉じた計測。プライバシー規制で追跡型広告が難しくなり、購買データを持つ小売に予算が集まる構造。消費者支出の約8割が実店舗で、店内リテールメディアに伸びしろ。
- 米国では2026年の増分の89%超をAmazon・Walmartが占有。Amazonの広告収入は2025年600億ドル→2028年750億ドル超、米シェア約75%。効率は高いが依存リスクを伴う。
- ブランドは「認知と刈り取りの役割分担」「閉じた計測の過大評価に注意」「二強依存の分散」の三点で予算配分を見直すべき。日本のEC市場は2026年に約38兆円規模。
出典
本記事はBusiness Age 編集部が、以下の複数の出典を確認したうえで独自に構成・編集したものです。詳細は各出典をご確認ください。
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