Vertex AI改め「Gemini Enterprise」——グーグルが賭ける運用時代のエージェント基盤
Vertex AI改め「Gemini Enterprise」——グーグルが賭ける運用時代のエージェント基盤
グーグルが「Google Cloud Next '26」でVertex AIを「Gemini Enterprise」へ再編。ノーコードのエージェント作成、200超のモデル(Claude含む)、エージェント間通信A2Aを打ち出した。競争軸はモデルの賢さから統治・運用へ。自社導入で見るべき観点を解説する。
2026年4月、ラスベガスで開かれた年次イベント「Google Cloud Next '26」で、グーグルは企業向けAIの看板を掛け替えた。これまで開発者に親しまれてきた「Vertex AI」の名前を捨て、新たに「Gemini Enterprise Agent Platform(ジェミニ・エンタープライズ・エージェント・プラットフォーム)」として再編したのだ。
単なる名称変更ではない。社内に散らばっていたAI開発の道具立てを一つの土台に束ね、企業が「エージェント(自律的に動くAI)」を作り、動かし、統治するための統合環境として打ち出した。CEOのトーマス・クリアン氏は基調講演で、この転換の意味をはっきり言い切っている。
「実験の段階は終わった。ここからが本当の挑戦だ」
派手なデモでざわつく時期は過ぎ、現場で毎日回す「運用」の勝負に入ったという宣言である。ここに、2026年のエンタープライズAIの空気が凝縮されている。
「Vertex AI」を畳んで一つの土台へ
発表の核心は統合だ。グーグルはこれまで別々に育ててきた開発基盤「Vertex AI」と、業務横断の検索・アシスタント製品「Agentspace」を、「Gemini Enterprise」という一つの製品名のもとにまとめた。バラバラだった入り口を一本化し、モデル選び・エージェント構築・運用監視までを同じ環境の延長で扱えるようにした格好だ。
中でも現場の担当者に効きそうなのが、ノーコードのエージェント作成機能「Workspace Studio」である。Gmailやドキュメント、スプレッドシート、Meet、Chatといった日常のグーグル製ツールに対し、「この条件のメールが来たら要約してシートに転記して」といった具合に、自然な言葉で自動化を組める。AsanaやJira、Mailchimp、Salesforceなど外部サービスとの連携も用意され、エンジニアでなくても業務の自動化に手を伸ばせる設計になっている。
つまりグーグルは、「腕に覚えのある開発者向けの実験場」から、「業務の担当者が自分でエージェントを組める運用基盤」へと、製品の重心を移したわけだ。長年使われた名前を捨てたのは、その意思表示でもある。
なぜいま各社は「モデル」でなく「基盤」を競うのか
ここ数年のAI競争は、賢いモデルそのものの性能比べだった。ところが2026年に入ると、論点は「どのモデルが一番賢いか」から「企業が安全に、安く、止めずに動かし続けられるか」へと移っている。理由はシンプルで、多くの企業が試験導入の段階を越え、実際の業務にAIを組み込み始めたからだ。
実運用に入ると、悩みは一気に現実的になる。社内システムとどうつなぐか、コストの膨張をどう抑えるか、権限と監査をどう効かせるか——。賢さよりも「統治(ガバナンス)」と「運用」が効いてくる。クリアン氏が競合を評して「彼らは部品は渡すが、土台は渡さない」と語ったのは、まさにこの差を突いた言い回しだ。
グーグルの賭けは、自前のインフラからモデル、開発ツール、業務アプリまでを縦に串刺しにした「全部入りの土台」を提供することにある。部品を寄せ集めるのではなく、一つの土台の上で完結させる——その一体化こそが、運用フェーズの企業に効くという読みである。
200超のモデルとA2A——相互運用に賭ける設計
意外なのは、グーグルが「自社モデルだけで囲い込む」道を選ばなかった点だ。新基盤は自社のGeminiやGemmaに加え、競合であるAnthropicのClaudeやオープンソースのLlamaなど、200を超えるモデルを同じ場所から呼び出せる。用途ごとに最適なモデルを混ぜて使う「マルチモデル」が当たり前になった現実に、素直に合わせにいった。
さらに象徴的なのが、エージェント同士を会話させる通信規約「A2A(Agent2Agent)」の本番採用だ。これはグーグル一社の囲い込みではなく、Linux Foundation傘下で標準として整備され、マイクロソフトやAWS、Salesforce、SAP、ServiceNowといった競合・大手も本番運用で名を連ねる。AnthropicのMCP(Model Context Protocol)も取り込み、地図やBigQueryなどへの接続を標準化した。下の表は、2026年時点での主要3社のエージェント基盤の特徴を、公開情報から整理したものだ。
| 項目 | OpenAI | Anthropic | |
|---|---|---|---|
| 基盤の名称 | Gemini Enterprise Agent Platform | Agents SDK/Operator | Claude Managed Agents |
| 重心 | 全部入りの統合・相互運用 | エージェントの実行性能 | 接続規約MCP・統治機能 |
| 象徴的な指標 | A2Aが本番150組織 | Codex 週300万利用者 | Opus 4.7・Claude Code |
| 外部モデル | 200超(Claude含む) | 自社中心 | 自社中心 |
表からわかるのは、三社が同じ土俵で戦っているわけではないということだ。グーグルは「束ねる土台」、OpenAIは「動くエージェントの実行力」、Anthropicは「つなぐ規約と統治」に重心を置く。自社で導入を考えるなら、まず「自分たちが解きたいのは束ねる問題か、動かす問題か、つなぐ問題か」を見極めるのが先決になる。
自社でエージェント基盤を選ぶときに見るべきこと
では、こうした発表を自社の判断にどう落とすか。まず押さえたいのは、派手な性能数値に引っ張られないことだ。ベンチマークの高得点は目を引くが、現場で効くのは「既存の社内システムと無理なくつながるか」「権限と監査ログが要件を満たすか」「一年後にコストが読めるか」という、地味だが本質的な条件である。
次に、特定ベンダーへの「ロックイン(囲い込み)」をどこまで許容するかを最初に決めておきたい。200超のモデルやA2Aのような相互運用の仕組みは、裏を返せば「乗り換えやすさ」を担保する保険でもある。今は一社で固めるとしても、標準規約に乗っているかどうかは、数年後の交渉力や移行コストに直結する。
最後に、社内の「作り手」を誰に想定するかだ。Workspace Studioのようなノーコード環境が広がれば、自動化の主役はエンジニアから業務部門へと移る。ここで効いてくるのは、ツールの華やかさよりも「誰が作り、誰が責任を持ち、誰が止められるか」という運用設計である。導入の成否は、結局この体制づくりで決まる。
「実験」から「運用」へ——2026年後半の論点
グーグルの今回の動きは、AI業界全体が「お披露目」から「日常運用」へと舵を切ったことの、わかりやすい一例だ。名前を変え、土台を束ね、競合のモデルや標準まで取り込む——その全てが、企業が毎日止めずに回せる環境を整えるための布石である。
一方で、課題も残る。複数のエージェントが自律的に動き出せば、その分だけ管理すべき「主体」が増え、セキュリティや権限管理の難度は上がる。グーグルがエージェントに固有の身元(アイデンティティ)を持たせる仕組みを用意したのも、この裏返しだ。便利さと統治は、常に綱引きの関係にある。
2026年後半に向けて問われるのは、「どれだけ賢いか」ではなく「どれだけ安全に、安く、長く回せるか」だろう。クリアン氏の言う「本当の挑戦」は、ベンダーだけでなく、導入する企業の側にも等しく突きつけられている。
まとめ
Google Cloud Next '26(2026年4月22〜24日)でグーグルは、Vertex AIを「Gemini Enterprise Agent Platform」へ再編し、ノーコードのWorkspace Studio、200を超えるモデル(Claude含む)、エージェント間通信のA2A標準などを打ち出した。競争の軸は、モデルの賢さから「統治・運用・相互運用」へと移っている。自社で取り入れるなら、ベンチマークの数字よりも、既存システムとの接続性・監査・コストの見通し・ロックイン回避を先に点検したい。2026年は、AIが「見せ物」から「毎日回す道具」へと変わる節目の年になりそうだ。
出典
本記事はBusiness Age 編集部が、以下の複数の出典を確認したうえで独自に構成・編集したものです。詳細は各出典をご確認ください。
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